魔王の凱旋

オリジナルの小説をちまちま書いていきます。

五話 一撃

「やっと見えた.............」
ミラの研究所から出発してから10時間。山までの距離が意外と遠く、夜が明けてしまった。魔王軍と一刻も早く対峙するために夜は寝ていない。元から俺の一族はあまり寝なくても平気なため、あまりコンディションをおとさずに戦うことはできるだろう。
イグニール族.....古の四龍が一角、イフリートを代々崇め、契約している一族で、村人は18になる日に村から少し離れた、イフリートを祀る祠でイフリートと契約するしきたりとなっている。
またこの世界の人は生まれつき1つの属性に特化した魔力をもって生まれてくるが、イグニール族は生まれついて魔力を持たない珍しい人種である。
俺はもう18だが、契約の儀を行う直前に村が襲われてしまったため、属性特化魔力を持っていない。だがしかし、どうやら俺は村に100年に1人生まれてくる『魔力持ち』らしく、魔法こそ使えないが魔力コントロールは可能だ。あっさりギアを使いこなせたのも、おそらく『魔力持ち』だからだろう。
そろそろ村が見えてきたが、魔王軍の姿が見えない。どういうことだ.....?

辺りを警戒しながら歩いていたら、ぬかるんだ地面に足が滑って転んでしまった。だが雨がふった形跡は無い。周りをよく見渡してみる。すると広場の方に"大量の死体の山"があり、そのふもとに"少年が1人"こちらをねめつけるように立っていた。

「あれ、自分からお出ましですか。随分と死にたがりなんですね.....」

「.............ディアブロ・イグニールさん」

「....................は?」

なんだこいつは。何故俺の名前を知っている。そんな考えを少年は表情で感じ取ったようで、話を続けてくる。

「安心してください。僕と貴方は初対面です。何故名前を知っているのかって顔してますね。簡単な話です。僕が魔王軍幹部で、このイグニール族の殲滅を実行した男の上司だからですよ」

言葉が、でなかった。ただ、怒りは全身から滲み出ていただろう。

「...............殺す」

地面を、抉れるほどに強く蹴る。

「..........お前をッ!ぶっ殺すッ!!」

硬質化した右腕で、相手の顔面を強く殴る感触が全身を駆け巡った。