魔王の凱旋

オリジナルの小説をちまちま書いていきます。

一話 邂逅

ディアブロか。イフリート様は中にいらっしゃる。失礼の無いようにな」
祠へ行くと、鎧を身にまとった体格のいい青年が俺を迎えてくれた。彼はこの祠の門番で、みんなのアニキ分だ。
「わかってるよ。そういえば俺、イフリート様を見たことないんだけど、どんな方なんだ?」
「イフリート様は炎を司る巨大な龍様だ。もっとも普段は−−−−−−
−−−−−−話が遮られる程の爆音がしたと思ったら、村の方から煙が上がる。きっと村で何かあったに違いない。考えるより先に、俺の身体は村に向かって走り出していた。
「お、おいディアブロ!待て!!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
村は大惨事だった。休火山であったはずのこの村がある山が噴火している。
どう考えたって魔法が関与したとしか思えなかった。一体誰が..........?
「..........これは、もしかすると魔王軍の仕業かもしれないな」
気がつくと、後ろに門番のアニキが立っていた。
「俺が中の様子を見てこよう。生きている仲間がいたら連れて来るから、お前はここで待っていてくれ」
そう言って村の中へアニキは入って行ったが、それが間違いだった。
『お前達、やはり魔王軍か!!俺がここで片付けてや−−−−
ザシュッという肉が抉れる音がした後、アニキの声が聞こえなくなった。俺は恐怖で動けなかった。
「なんだァ?まだ生き残りがいるじゃねぇかァ」
入り口でガタガタ震えてうずくまっていると、魔王軍と思われる巨漢が俺を見つけた。
「お前は運がいい。なんたって、俺様直々に殺して貰えるんだからなァ」
そう言って巨漢はその右手に持った巨大な剣を振り下ろす。
死を覚悟したその時、俺の中で何かがはじけた。
「..........!?なんでお前、俺様の剣を指2本で受け止めてやがる!?」
「お前が.....俺の.....家族ッおおォオォオッ!!」
巨漢の剣が折れる。巨漢が驚愕に目を見開く、俺が脚を踏み込む、踏み込む、踏み込むッ!!
右の拳が相手の鳩尾にクリーンヒット。巨漢は吹き飛ぶ。だが次の瞬間に俺は吹き飛んだ巨漢に追いついて、次の拳を入れる。入れる。入れる。相手はもう虫の息だ。
止めを刺す為にもう一度地面を蹴ったが、何故か俺は前のめりに倒れた。
「フ、フハハハハ!やはりお前は運が悪い!俺様にではなく、俺様の部下に殺されるんだからなァ!!」
血を吐きながら巨漢は叫ぶ。
よく見ると、俺の胸にクナイのようなものが深々と刺さっている。傷に気づくと胸から血がドバドバと流れ出し、溢れる。
「ああ、ああ、ああああああああああ」
仲間の敵をとることもできず、俺の人生は幕を閉じた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ピ、ピ、ピ、と俺の鼓動に合わせて電子音が聴こえる...。
ここは、どこだ?

「やぁ、やっと目覚めたのかい?」

...?誰の声だ...?

「ああ、すまない。装置のスイッチを切ってなかったね」
そう言って謎の人(おそらく女性だろう)はカチャカチャと何かを操作した。感じていた浮遊感が消えたことから、俺はどうやら液体の中にいたらしい。
「さあ、これで話ができるね。まず、君の名前を聞かせてくれるかい?」

プロローグ

村から続く山道を、一歩一歩踏みしめて進む。生まれてから18年、この日をずっと待ち続けた。今日からやっと、俺の本当の人生は始まるんだ。

年端もいかないわんぱくそうな少年が、子どもが遊ぶ様子を優しく見守る老人に話しかける。
「なぁなぁばあちゃん!ディアブロのにーちゃんが見当たらないんだけど、どこいったか知らない?」
「おやおや、ディアブロは今日で18になったじゃないかい。やっと魔法が手に入るって、朝早くからイフリート様のいらっしゃる祠へ向かっていったよ」
「そっか.....にーちゃん今日いないんだ。でもいいなー。俺も早く魔法使えるようになりてー!!」
「もう少し先の話だね。でもまぁ、あんたにもいつか18になる日がくるさ。焦らずゆっくり待つことだね」
老人は優しい眼差しをきゅっと細めながら少年に言った。少年は少し不満そうだ。
「ちぇー。早く俺も大人になりてーなー」_____


_____これは、人々にとって魔法が身近な世界で起きた、ある青年の物語。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

むかし むかし あるところに ひとと まものが きょうぞんする ふしぎな せかいが ありました。

そのせかいを おさめるのは まおう とよばれる とてもつよく ふしぎなちからをもった ひとりの おとこでした。

じぶんが おさめた せかいは あまりにへいわで まおうは なにもすることがありません。

そんなあるひ まおうは あることを おもいつきました。

「おれの このちからで このせかいを おもしろい せかいに かえてやろう。だれもが おれと おなじ この ふしぎな ちからを つかえるように してやろう」

そうして まおうは じふんの その おおきなちからをつかい せかいを ひとを どうぶつを じぶんをも つくりかえてしまいました。

そうして なんぜんねんものむかし わたしたちの せかいは うまれたと いわれて います。
_____だれでもしってるおとぎ話  おとぎばなしのだいまおう  より_____

パタン、と音を立てて本を閉じ、本を読んでいた女性はふぅ、と息を吐いた。
「いつ読んでもめちゃくちゃな話だ」
苦笑しながらそんなことを呟く。
「まぁ、おとぎ話なんてこんなもんか」
そう言って女性はカーテンを開ける。いつもの澄んだ青空と違い、まだ午前中だというのに、真っ赤な空と、山からもくもくと昇る煙が、窓の外に広がっていた。
「なんだ.....?山が噴火している.....?」
明らかに異常な風景に、女性は不安を覚える。
普通ではありえない景色と共に、物語の歯車は廻り始めた。